シーフード・エクスポ・グローバル 2022 バルセロナ・スペインを訪問して

 

今回はこちら☞「後編:バルセロナ市内の水産流通ポイントの視察」です。

 

新型コロナウイルス感染の影響で2年間中断していたシーフード・エキスポ・グローバル(SEAFOOD EXPO GLOBAL)が、開催場所をベルギーのブラッセルから、スペインのバルセロナに移し2022年4月26日~28日の3日間で開催されました。筆者はこのエキスポの機会を利用した日本発の水産エコラベル:MELジャパンの普及推進活動を目的にスペイン・バルセロナを訪問しました。 オフィシャルな出張報告書は別途報告しているので、このページでは旅の手記を写真を中心に2回に分けてリポートします。

まずは前編:「出入国・渡航とシーフード・エキスポについて」

1,出入国と飛行ルート

今回の出張はなんといっても、制限緩和が進む中でも「コロナ禍」であったことと「ウクライナとロシアの紛争」の真っ只中であったこと。

スマホでのコロナ感染水際対策用のアプリ登録

スペイン・EU入国と日本帰国用にはスマホへのアプリのダウンロードと登録が必要で、スマホを使い慣れない高齢者には少々難題か。しかし、実際のスペイン・EU入国時にはSpTHをチェックされることは無く肩透しを食らう。 反面、日本帰国時の水際対策は経費のかけ過ぎではないかと思うほど多くの人員スタッフが整えられていて厳格に行われていた。ここはアプリによる事前登録によってスムースに検疫PCR検査を受けることができた。検疫で働くスタッフには英語が話せるようにとアジア系の外国人スタッフが多く雇われていた。

写真左側のアプリはスペイン入国用のSpain Travel Health:日本でのワクチン接種証明書などを登録、右側のアプリは日本帰国用のMy SOS:帰国後の国内所在場所報告用や検疫手続きの事前登録(ファストトラック:日本でのワクチン接種証明書、出国前72時間以内PCR検査陰性証明書など)

飛行ルート

羽田を飛び立って韓国、中国の上空を飛行し、先ずはオーストリアのウィーンに向かう。今回の空路はロシア上空を回避し長時間のフライトになると聞いていたが、座席のモニターで予定飛行ルートを覗いてみるとクリミア半島の上空を飛行するルートのままになっていた。

その後も気になって飛行ルートの確認を続けると、実際のルートはやはりロシア上空を避けて黒海の南側・トルコ上空を飛んでウィーンに向かうものであった。ウクライナ東南部では戦闘が激化しており、このタイミングでその横を飛行していると思うと、何とも言えず神妙な気持ちになった。

2,スペイン・バルセロナ

EUの西の端で北大西洋と地中海に面するスペインの地中海側の東北の端に位置するカタルーニャ州の州都バルセロナ。1992年のバルセロナオリンピックで一躍有名になり、街の特徴はローマ時代の旧市街地を中心に広がる街並みの中に建築家のアントニオ・ガウディが手掛けた大変ユニークな形をした建築物が点在することだろう。

サグラダ・ファミリア

ガウディが設計・建設を行ったこのサグラダファミリア(聖家族教会)はあまりにも有名。1882年に建設が開始され現在も建築中でガウディ没後100年の2026年に完成する予定。自然界に直線は無いとしてその自然を尊重して直線を設けず曲線のカーブを多く用いるのが建築の特徴。

世界の建築物の中で観光客が訪れるのが一番多いのはフランス・パリのルーブル博物館で、二番目に多いのがこのサグラダファミリアとのこと(コロナ前の観光客数は1日平均12,000人)。当初は州や市の財政と寄付金で建設費が賄われていたが、1990年以降、その莫大な観光収入(€20~35/人)と建築技術の進歩、特に最近では3Dプリンターの利用により建築スピードが格段と速くなり、完成予定が約50年近く前倒しとなった様子。

3,シーフード・エキスポ (Seafood Expo Global 2022 Barcelona Spain)

Seafood Expo GLOBALとSeafood Processing GLOBALの同時開催で、これまでに開催していたベルギーのブリュッセルが手狭になったこともあり、コロナ禍の影響で2年間の中断の後に、このバルセロナで開催された。

会場マップ

開催規模は5ホール(6エリア)で40,000㎡、参加国は76カ国、出展サプライヤーは1,550、来場者は26,000名超(SeafoodSource.comより)。 当初の予想では参加国80以上、出展サプライヤーは2,000を見込んでいたが、コロナ感染でロックダウンしている中国とウクライナ・ロシア紛争の影響で減少。 施設規模的にはインターナショナル・シーフードショー東京の4~5倍はあろうか、水産物の世界需要の拡大の勢いを感じることができる。

入口前 South Access

日本のJETROは会場入口の真ん前に唯一の宣伝ポールを設置し、目立っていた。

               日系のパビリオン (ニッスイグループ、マルハニチログループ、極洋、JETRO)

どのパビリオン(ブース)も大型で、商談用のテーブル・スペースを広く確保し、展示商品は少なめで、試食は商談の中で提供されるスタイルが多くなっている。

JETROパビリオンはアジアンチックな出展13社の小さなコマ割りとなっており、商品・メニュー提案主体でミーティングエリアは十分ではないように思えた。会場内はマスク着用の必要がなかったがJETROパビリオンのみ出展者スタッフはマスク着用であった。

ハマチは大人気

マグロ、サーモンに並んでハマチ(ブリ、Yellow tail)やヒラマサ(Kingf ish)が大人気で紹介されており、価格はキロ当たり€14(約2000円)を超えるも引き合いが強いとのこと。

4,水産エコ認証マーク

各国や各企業のパビリオンでは、自国の水産業の在り方やその中でも持続性に繋がる取り組みやエコ認証を紹介・アピールしているものが多く見かけられた。 しかし、SDGsの17色のカラフルなマークは目立ってはいなかった。

エコマーク 乱立気味

世界のエコ認証マーク類は150を超えており、”釣り漁業認証”や”活〆認証”なるものも出てきているとの話である。

MSCとASCのパビリオン 終始来客が多く大変盛況な様子。

ローカル認証 ALASKA

ALASKAやICELANDなどは独自のローカルなエコ認証(Certified Sustainable Alaskaなど)を進めており、パビリオンにはMSC・ASCマークを一切掲示しない徹底ぶり。

EUでは、もはやコロナウイルスは風邪程度の取扱いとなりつつあり、入国の審査もワクチンの3回接種証明書があれば問題なく渡航、入国できる状況で、このExpo会場でもマスク不要、殆どの入場者や出展者はマスク無しであった。 但し、日本のJETROパビリオンのみは出展者スタッフ全員がマスク着用であり、EUの人の目にはどのように映ったことだろう。また、EUの人にとっては中国が続けるコロナ対策のロックダウンに不可解なものを感じているようであった。(新しい変異ウイルスの出現か???)

後編

 

 

後編

2022年4月末のGW前に開催されたシーフード・エキスポ・グローバルでバルセロナの訪問に関して、その出入国・渡航とエキスポについては前編で報告した。この後編ではバルセロナ市内で視察した水産流通のポイントをリポートする。

カタルーニャ州・バルセロナについて(改めまして)

バルセロナのあるカタルーニャ自治州はスペインの地中海岸の北東部にあり、ローマ帝国滅亡後にスペインとの戦争で敗れて統合されるまでのカタルーニャ君主国は、このスペインの東部から地中海の東の果てのキプロス島に至るまでを支配することもあった海洋覇権国であった。言語もスペイン語とは異なるカタルーニャ語でスペインからの独立心の強い地域である。

かつてのカタルーニャ君主国は地中海の海洋覇権国だった。

ここからは市内の視察リポート

 今回は、地中海の魚が水揚げされる市内の漁港から、国内外の生鮮物が集まってくる中央卸売市場、市内の生鮮市場と量販店、シーフードレストランまでの水産流通のポイントを一貫する市内視察を行った。

1,漁港 La Lonjaの視察 

カタルーニャ州には4つの小規模場な漁港 La Lonjaがあり、その一つがバルセロナ市内にあって、現在10隻のまき網船と16隻のトロール船の小型の漁船(全長15m未満)が所属し産業的ではなく、組合的に小規模に経営されている。今回の4月末の訪問時にはまき網船がサーディン、アンチョビ、サバ、アジなどの浮き魚を漁獲していて、6月からはトロール船が操業を開始する見込みとなっている。漁模様もあるがウクライナ紛争の影響による燃油高騰の影響で出漁を見合わせているらしい。漁船の数は20年前の半分に減少するも、漁獲量はここ数年横ばいの状態で、魚価のアップもあって漁船毎の売上額は減少していない。しかし“漁獲量が少ないこと=仕事が少なくなること”は健全なことではないと考えられているようす。

セイナーまき網船、・・・奥に見えるのは豪華クルーザー。バルセロナ港には出航許可が取り消されているロシアのクルーザーが3隻いるとのことであった。

漁港の見学ツアーは海洋生物学者が担当していた。EUでは漁港の観光・見学ツアーは一般的なもので、観光収入は勿論、教育にも役立っていると考えられている。この生物学者の出身のイタリアでは漁港ツアーで漁船へ乗船するツアーも行っているとのこと。(スペインでは危険なので実施されていないと)

漁港見学ツアー、競りの様子

この朝の漁港での競り(オークション)は、トロ箱に入ったサーディンとアンチョビがコンピューターシステムを介した電光スクリーンと手元のリモコンによって“下げ競り”で行われていた。 トロール船の漁がある場合にはまき網よりも多くの魚種の水揚げと競りが夕方に行われるとのこと。漁船と漁港の仕事に従事しているのは男性のみで、女性はどこで働いているのかと問うたところ女性は市内の魚市場で販売の仕事に携わっているとのことだった。

 

2,中央卸売市場 メルカバルナの視察

EUで最初の中央卸売市場と言われる(?)メルカバルナは40年前にバルセロナの市街地からこの空港の近くに移設され90ヘクタールの敷地面積で青果・花き・水産物が取り扱われ、600社7,500人の従業員が働いており、毎日14,000台の車と23,000人がアクセスし、水産の卸売業者は60社で年間160,000トンの魚介類が取引されている。冷凍のエビとイカを除けば殆どが生鮮魚介類で、訪問時にはアンチョビ、サーディン、サバ、メルルーサ、貝類が主体でスズキ、マグロ、ヒラマサなども散見された。大卸や競りはない様子で、また卸売業者ごとに魚種の専門性は少なく、全店がほぼ同じような魚種を取り扱っていた。スペインではシーフードと言えば大西洋岸のガルシア地方が中心で、そこを含めたスペイン国内やアフリカのモロッコなどからも生鮮魚介類が運ばれてきている。コロナ禍前には市場見学も盛んで年間11,000名程度の小学生の見学を受け入れていたとのことである。

漁港の市場でも卸売市場でも木製パレットが使われており、また下足のまま自由に入場が可能であり、日本におけるEU-HACCPの要求事項の厳しさを感じてしまう。

水産卸売市場とアンチョビ・サーディン

水産の業務用車の色は白、英国の水産市場でも同じであったが、EUの水産関係の業務用車の色はどうも白に統一されている様子。

 

3,市内の生鮮市場 BoqueriaとLa Concepcioの視察

市内にはスーパーマーケットとは別に昔ながらの生鮮市場が点在しており、魚介類や肉、チーズ、野菜、果物などの色とりどりの店が軒を連ねていて観光スポットにもなっていている。鮮魚店では丸魚が氷の上に並べられて販売されていて、一部はお客からのオーダーに応じて下処理されている様子で、漁港で聞いた通り売り子は女性が多い。売り場の隅の一角には下処理で出る魚のアラ(頭や尾部や中骨、腹須など)がデコレートされて販売されていた。売れている様子はないが、丸魚での販売といい、アラの販売の様子といい、魚の食育や食品ロス削減への教材としては好ましいものと思えた。

生鮮市場(Boqueria市場入口、鮮魚店)

 

生鮮市場(氷上の鮮魚、魚のアラ)

肉・生ハム店、野菜店

 

4,スーパーマーケット Carrefour(カルフール)の視察

フランスに本店があり世界に12,300店を展開するスーパーマーケットのカルフールを視察した。鮮魚売り場では市内の生鮮市場と同様に氷の上に丸魚が並べられて、オーダーによって下処理されて販売されていた。その他には伝統的な食材の塩ダラや人気のスリミ製品のカニカマやイミテーションのシラスウナギなどが販売されていた。

白身魚など冷凍水産品も販売されていたが、エコマークが付いたものが少なかった。以前、北欧、オランダ、フランス、英国での量販店ではよく見かけたが、カルフールほどのグローバルな量販店でもエコマークが少ないのはスペインのお国柄のせいだろうか?(家庭用冷凍食品のパッケージにはエコマークが付いていた様子。)

カルフールの鮮魚売場と塩ダラ

スリミ製品のカニカマとイミテーションのシラスウナギ

スペインとフランスの国境近くのバスク地方では昔からシラスウナギ(うなぎの稚魚)が伝統的に食べられていた。シラスウナギは漁獲減少により資源保護管理対象となり、スリミで作られたイミテーションのシラスウナギが登場。今では冷凍乾燥してしまう本物のシラスよりもチルドのイミテーションの方が美味しく、唐辛子とニンニクとオリーブオイルで調理されたこのイミテーションシラスウナギはフィッシュスパゲティ(ペペロンチーノ風味)とも呼ばれて人気食品となっている。

 

10、レストランで出会った魚料理

 

ヒラメとスズキの料理 シンプル塩味の焼き魚、オーダーは1尾単位。

 

カメの手は病みつきになるおつまみ。日本と同じくタコを食べる食文化。

 

最後に

コロナウイルス感染対策でロックダウンが続く中国とウクライナ・ロシアの紛争の影響でエキスポへの出展企業や来場者は当初の見込みよりも減少したようだが、広大な会場の規模には世界の水産物への需要拡大の勢いを感じることができた。また、各出展企業や出展国は持続性を目指す自国の水産業の特徴を紹介・アピールしており、それが世界の流れとなっていた。

バルセロナ市内の視察においては、水産業(漁港、卸売市場、鮮魚市場)と観光、教育が結び付けられており、また、昔ながらの丸魚を販売する鮮魚売り場がしっかりと残っていて、日本では減ってしまったと言われてやまない”魚屋の対面・説明商売”が生活に息づいていていたのが印象的であった。

バルセロナ漁港の時計台(元灯台)とサーディンの酢漬け

来年以降シーフード・エクスポでバルセロナを訪問される方には前出の市内の漁港La Lonjaの観光ツアーがお勧め。なかなか普通の観光では訪れない場所で、ツアーの最後に港のシンボルの時計台の上でテイスティングさせてくれるサーディンの酢漬け(オリーブオイルとバジル)は絶品です!

 

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