新型コロナウイルス感染症は魚食文化をも変えるのか?

大日本水産会 魚食普及センター 名古屋駐在 神谷友成

時は昭和

12月30日。それは年に1度の中央卸売市場の一般開放日!

冷凍ズワイガニ、養殖ブリ、マグロにニダコ、カキにイクラ、カマボコにカズノコ…、俗に正月用品と呼ばれる水産物をお値打ちに購入する為、大勢の一般消費者が市場にやってきた。あれこれ、持ちきれないほど買い込んだ消費者で市場は大混雑したものだ。

そんな市場の店舗を、長靴、制服、制帽姿で、人並みをかき分け「業界人顔」で颯爽と歩いた若かりし頃を今でも覚えている。

その当時、正月用品の存在は絶対だった。然るに、正月三ヶ日と言えばどの業界も休業するのが常識だった。

時は平成・1996年。

とある量販店が消費者ニーズに応えるべく、それまでの常識を覆し、元日営業を開始した。消費者は特別買い込まなくても、欲しい物が欲しいときに欲しい量だけ手に入る時代に突入した。その頃を境に、30日の市場解放日にやって来る一般客は急激に少なくなった。それでも、正月用品と呼ばれる水産物は健在だった。

時は流れて2018年。

なるべくして多様化が進み、正月用品自体、販売力をなくした。元日営業のメリットが少なくなったとして、元日営業の是非についての議論も始まった。

そんな矢先の2019年12月

中国武漢で始まった新型コロナウイルス感染症が瞬く間に世界中に広まることとなる。翌2020年日本でも感染者が増え、緊急事態宣言が出ると、生活様式、価値観、働き方までが一変した。とりわけ外食産業への影響は凄まじく、その暮れは俗に言う「巣ごもり需要」が進み、量販店に特需が生まれた。ある意味、正月用品の復活か?…

で、現在に至っている。

ではコロナ元年の2020年の年末と2021年の年末を比較すると水産物の売り上げはどうだったか?

結論から言えば、コロナ元年=2020年の年末に比べ、コロナ2年=2021年の年末の方が、売り上げを伸ばした。問屋から小売、業務筋に至るまで大筋こんな感じだったと聞いている。ただし、外食産業はコロナ以前に戻るには程遠いが…

2021年暮れ、年末に向けワクチンの効果があったのか、なぜか感染者数が減った分だけ、移動の自由度が高まり、どの業界でも来客数増加に繋がったようだ。

おせち料理のセット物も大きく販売を伸ばしたものの、料理屋筋が作る、高級おせちについては、高級食材の品薄による高値が響き、売価に転嫁できず採算割れを起こすものが多く出たそうな。

とは言え、業態別に見れば、それぞれ中身に違いがある。

例えば量販店の2021年(昨年末)

前哨戦のクリスマス前後は、悪天候(大雪)の影響で、計画通りの販売が出来なかったところが数多く出たようだ。

それでも28日からの際物販売では、定説どおり都心より、郊外店に分があった。昨年の特色でイクラ、カズノコ、ズワイガニ、ウニ、天然ブリ、ナマコ、キハダマグロ…

温暖化、赤潮、不漁などの影響を受けて入荷が少なくなったものが需要のピークを迎えた。高値が続いた結果、来客数は増えても、販売点数は減ることに。しかし、品薄による単価高は、結果的に売り上げ金額増に結びついた。もちろん、際の際、店舗間振り替えなどで、微調整を重ねて、販売ロスを最小限に抑えるというハイテク技術が加わってのことだが…

これら一連の流れは、魚食文化にどんな影響を与えたのだろうか?一度は多様化して影を薄めた「正月用品」は戻ってきたのか?それとも単なる単価高の成せる技か?

量販店のバイヤーから面白い話を聞いたので紹介したい。

かいつまんで言うと、こうだ。

2020年より、2021年の方が販売金額は伸びた。

特に、都心の店よりも郊外店の方が売り上げは伸びた。感染者が減って里帰りした人が増えたせいだろう。

ポスレジから得る膨大なデータから分析するのがバイヤーのお家芸だ。彼は自分の仕事を振り返りこんな分析に至ったそうだ。

水産物に限って言えば、売り上げが伸びた郊外店の中でも、普段から対面販売コーナーを充実させた店の方が、より伸びた。対面販売を通してお客様と会話をして提案、説明をしながら販売を重ねることが効果絶大だった。やはり水産物は説明商品だと実感した。とバイヤーは言う。

こんな時代だからこそ日々の魚食普及活動は大事だと言うのだ。しかも、何でもない毎日の売り場にヒントがあった。

水産物はいつの時代でも「説明商品」

お客様との会話の中で説明しながら提案、販売を進めていく商品だと市場の先輩から教わった事を思い出す。

つまり販売は水産チーフの「魚力:さかなりょく」にかかっている。並べて置くだけの「魚置き場」ではなく、積極的に売りに行く「魚売り場」の構築が明暗を分ける。

普段の何気ない「ひと言」がいかに大事か…それが正月用品に結びつく。つまり、伝統食文化に結びつく。

そういえばこの1年間、親子教室などで魚について勉強した親子の中で、何組かの親子が年末場外市場に筆者を訪ねて来てくれた。多くの種類の魚を食べ比べ、耳石を集めている「耳石ハンター」親子だ。聞けば、「食べる時は美味しく、学ぶ時は楽しく」を実践してくれているようだ。この親子たちも学習会で覚えた魚を中心に正月用品をチェックしていた。

では、新型コロナ感染症の時代にあっても水産物の販売は「説明商品」なのか?

むしろ巣ごもり需要になったせいで、多くの人が無料動画サイトに興味を持った。その情報と、対面販売のあり方がコロナ時代にマッチしたのか?

いずれにしても、日々毎日の対面販売で、お客様との会話を通して説明を繰り返した店舗は結果的に売り上げを伸ばすことにつながったようだ。

魚に精通した販売員を育てる事は販売力の強化に直結している。さらにお客様とのコミニュケーション力はお店の信用につながる。聞いて伝える。食べて伝える。水産物は説明商品。古典的だが、それこそキモの部分。コロナ禍にあったからこそ気がついた。今年はこの路線を続けて行きたい。と言うのが彼の話だった。

ウイルスが無くても時と共に文化は移り変わる。

逆に、ウイルスで無くしたものが戻って来ることだってあるかも。

これが全てではないけれど、魚食普及活動に携わる者として、日々の取り組みが成果を表した一例として嬉しい話だった。

我が家流、大いに結構!それを伝えることが重要だ。

2020年12月31日 随所に消毒液設置  場外市場

2021年1月6日 こんな旗もだんだん少なくなってきた

2021年12月30日  賑わう場外市場 一昨年より来場者が多い

2021年12月30日 名古屋場外市場 日の出前 駐車場へと並ぶ車列

2022年 1月  ある量販店の対面コーナー

 

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