「EPAの日」毎月30日 日本のおさかな記念日

EPAで食生活を見直す ―毎月30日は「EPAの日」-

株式会社ニッスイ 食品機能科学研究所 機能性素材開発課 加藤 綾華

1.EPA医薬品の開発とニッスイ

EPAが注目された歴史は1960年代に遡ります。当時、欧州で最も心筋梗塞での死亡率が高かったデンマークのダイアベルグ博士とバング博士は、心筋梗塞などによる死亡率が極端に少なかったグリーンランド在住のイヌイットに興味を持ち、数年間、全ての住民の死亡原因とその食生活の特徴に関する調査を行いました。その調査結果をデンマーク人と比較した研究報告の中で、博士らは「肉食が中心のデンマーク人は血中のアラキドン酸(AA)濃度が非常に高く、一方でω3脂肪酸(特にEPA濃度)は極めて低い」こと、これに比して「魚を主食とするアザラシなどの海獣が主食であるイヌイットは血中のEPA濃度が極めて高く、AA濃度は極めて低い」ことに注目し、イヌイットに心筋梗塞などの血栓性疾患や炎症性疾患が極めて少ないのは、食生活の違い、特に摂取している脂肪酸の種類(特にEPA)の違いにその要因があるとの仮説を提唱しました1)。

この研究に注目した千葉大学医学部(当時)の平井愛山先生が、ニッスイに共同研究の話を持ち掛けたことをきっかけに、1980年に千葉大学とEPAの医薬品化へ向けた共同研究が開始されました。その後医薬品用の高純度EPAを製造する技術の開発に持田製薬とともに着手、これは世界初の試みでしたが、様々な困難や努力を経て、1990年に世界初の高純度EPA製剤「エパデール」(持田製薬)2)が誕生しました。

2.食生活のバランス(EPA/AA比)が大切

もともとEPAを豊富に摂取する環境にある魚食民族と言われていた日本人ですが、食の欧米化が進んだ結果、2006年には1人1日あたりの肉類摂取量が魚介類摂取量を上回るようになっています3)。そして、この肉類の油にはAAが多く含まれており、現代の食生活では体内のEPAが少なく、逆にAAが多いという状態の人がほとんどです。どちらも無くてはならない脂肪酸ですが、大切なのは体内でのバランスです。2021年の日本人の死亡原因についての調査結果によると2番目に心疾患がありますが4)、これは、バランスの良い食生活、つまりEPAを摂取することにより予防できる疾病といわれています。そしてこの疾病と体内のEPAとAAのバランスを示すEPA/AA比との相関については、EPA/AA比が低い人(EPA/AA比:0.25)は、EPA/AA比が高い人(EPA/AA比:0.75)に比べて心血管疾患による死亡率が約3倍も高いという結果が福岡県の久山町にて実施された疫学調査において報告されています5)。魚食と肉食のバランスを取りEPA/AA比を適切に維持することは現代の日本人にはとても大切なことと言えます。

3.EPA啓発へ向けて「EPAの日」制定

そこで、ニッスイはEPAの摂取が減ってしまった食生活の見直しをサポートしようと、EPAの健康食品「海の元気 EPA」や特定保健用食品「イマーク」(2004年発売、現在は「イマークS」)など、手軽にEPAを摂取できる食品の開発と販売に取り組んできました。さらに2010年には社内に「サラサラ生活向上委員会」を立ち上げ、魚食の推進とEPAの認知拡大、EPA入り大豆バーなどの簡便食品の開発などにも取り組みました。その一環として、肉中心の食生活を送る人に「肉(29)を食べた次の日(30)には魚を食べ、EPAを摂取してバランスの良い食生活を一年中送って欲しい」という思いを込めて、毎月30日を「EPAの日」として登録されました。(2012年9月、一般社団法人日本記念日協会)

以来、従業員の定期健康診断の際にEPA/AA比の測定を行うなど、社内外へ向けたEPAの普及啓発活動に積極的に取り組んでいます。

医薬品の開発から始まったEPAですが、普段の食生活からでも日常的に摂取することで健康の維持に役立つ成分であることがわかっています。ご自身がEPAを適切に摂取できているかどうかお知りになりたい方はEPA/AA比を測定してみることをお勧めします。そして、その値が皆様の食生活をあらためて意識するきっかけになれば幸いです。

    

①イマークS         ②イマークスティックゼリー

<参考文献>

1)Bang HO, Dyerberg J, Nielsen AB. Lancet 1971; 1: 1143-1145.

2)1990年:閉塞性動脈硬化治療薬、1994年:高脂血症治療薬

3)厚生労働省「国民栄養調査」(平成9~14年)、「国民健康・栄養調査報告」(平成15~19年)

4) 厚生労働省 令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況

5)Atherosclerosis 231 (2013) 261-267

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