6月10日 「ところてんの日」 日本のおさかな記念日

伊豆のところてんを全世界に!「ところてんの日」にかける思いと、伊豆半島について

伊豆ところてん倶楽部 榎 昭裕

はじめまして。私は「伊豆ところてん倶楽部」で広報を担当しています。榎(えのき)と申します。今回はご縁あって当倶楽部の活動について執筆する機会を得ました。ありがとうございます。少々私のお話にお付き合いいただければと存じます。

この誌面を読まれている方々にとって「ところてん」という存在を知らない方はいらっしゃらないかと思います。浅瀬に生息している「テングザ」を材料にした加工物で、煮出したテングサを冷却させ、天突き(てんつき)でストンと突いて出るアレですね。夏の季節の風物詩であり、涼をとる食物としても知られています。近年では、ほぼゼロカロリーで食物繊維も含んでいる成分が着目され、ダイエット食品としても知っている人も少なくないはず。

しかし、テングサの収穫高は年々減少していき、ところてんの食文化は縮小していくばかりでした。私たち伊豆ところてん倶楽部は、伊豆半島のところてんの製造を行う7社のメーカーを中心に結成した団体で、PR・啓もうを通して、伊豆・全国のところてんの文化を保存を目指す団体です。

メンバーは7社のメーカーのほかに、会社員・主婦・中には学生の姿も。その全員が「ところてんを愛し、普及したい」という気持ちで参加しています(私も当初はそんな思いから参加したメンバーの1人です)。会費や参加の義務もなくゆるい繋がりで行う当倶楽部は、それぞれの持ち味を活かした活動を行っています。

<はじまり テングサの危機と人々の関心>

私たちが住む伊豆半島は、数百年も昔からテングサ漁では全国屈指の収穫量を誇り、地域の文化に根ざしていました。伊豆下田地域の資料によると、一時期小学校の学費が、テングサ漁の収益を使って運営されていたという記録があるほど。伊豆半島にとってテングサとは経済の下支えとなる大事な漁のひとつでした。

戦後もその収穫は、地元女性漁師である「海女(あま)」による漁は続いていたものの、日本の食文化の急速な西洋化によって、減産が続いてところてんの原料であるテングサは、一時期の1/10以下に下がってしまいました。かつて存在していた海女の存在は、その姿を消してしまい、現在は伊東に数人残すのみとなりました。伊豆におけるテングサ漁は逆風の中、努力をしております。そこにさらに逆風が吹いたのは、ここ十年ほど顕著になっている気候の変化です。伊豆半島だけでなく全国で発生している気候温暖なの影響か、日本でも有数の漁場であった伊豆半島の海水温の上昇により、テングサの生産は激減。今年まで漁場の回復は見込めていません。

私たちはこのピンチを発信するために、今から10年以上前に伊豆半島でのPR活動を開始しました。最初は伊豆のみでの活動でしたが「ことろてん」という他にはないコンテンツを発信し、多くのメディアに取り上げてもらいました。イベントの出演だけでなく、さらなる啓もう活動の一環としてマスコットキャラクターである「ところてん右衛門」というゆるキャラもメンバーたちで開発。2012年前後はくまもんやふなっしーを中心に、ご当地キャラブームが席巻していました。私たちもメンバーたちの知恵を集結してん右衛門を誕生させました。ただし、キャラクターの着ぐるみ制作費が100万円前後する中、私たちは知恵をしぼって(予算が十分でない部分もありましたが・・・)段ボール1枚で制作を実行。長方形の天突きモデルのボディ、手には天突きを持ち、角の代わりにさらす前のテングサを挿し、自称「世界一安いゆるキャラ」という付加価値を与え、世に出していきました。10年の間にはイベントやテレビ・ラジオ、インターネットメディアなど、多くのメディア出演を行い、ゆるい方法で一般の市民の皆さまに「ところてん」の存在を知らせる方法を採択しました。その結果、認知度は(ところてん右衛門の)上がることに成功。しかし、本質の「環境の変化によるテングサのピンチ」と「伊豆半島で採取されるところてんの認知拡大」までは至らず、メンバーは告知拡大に頭を悩ませていました。

<「ところてんの日」策定から、目標の設定>

せっかくのところてんのPRを行っても、顧客の意識・認識(パーセプションチェンジ)をしなくては、意味が薄れてしまう、と私たちは考えました。パブリシティの変化だけでなく、認識の変化(パーセプションチェンジ)、そして購買や行動に変化(ビヘイビアチェンジ)を狙わなくてはいけません。

そこで2016年には6月10日を「ところ(6月)てん(10日)の日」を日本記念日協会に申請し、年に1度ところてんを認識してもらう日を作り、この浸透と広報に着手しました。夏前の6月にところてんの啓もう活動をするのは成功し、多くのメディアが報道してくれるだけでなく、購買にも貢献できました。わずかながらですが、私たちはやりがいと成功体験を身につけました。

つづいて2019年のところてんの日に、リアルイベント「開国!ところてん王国」という企画を開催しました。それまで倶楽部では何度か販売や試食イベントを実行していましたが、購買や認知にいたらず「試食イベント」という位置づけにとどまっていました。

倶楽部では、あるゴールを設定ししてそのゴールに選ったイベント内容を実施。

①「小学生の男の子が伊豆半島各地のところてんの味わいが判別できる」→実際伊豆半島は地域によってテングサの品質によって、食べるときの「コシ」異なっていて、その文化を知ってもらうために食べ比べやパネル展示を実施しました。

②「伊豆半島の女子高生がなりたい職業に海女が3位以内にランクインするようにする」→海女の年収や1日の仕事内容を明記しつつ、魅力ある仕事内容を伝える。現在途絶えている「海女」という職業を認知させ、復活させることを目指しました。

③世界中に「ところてん文化」を伝える→世界中にはテングサを加工して食べる文化が少なく、世界的に利用価値を上げるため、外国人にも興味・関心のあるイベントを形成。外国人観光客も楽しめる「非言語化」を目指したイベントを実施。来年行われるパリオリンピックでは3色の「トリコロールてん」を世界的に売っていこう、と宣言しました。

今となってはバカバカしい提案でしたが、以上3つのゴールを設定したことで、メンバーの気持ちや意識も向上し、ところてん業界に住まない住民にも感心を呼び寄せることに成功。三島市内にかつてあった「大社の杜みまま」で開催されたイベントは500人以上の参加者、10社以上の報道が訪れてくれました。きっとこのイベントで多くの人がところてんについて理解と関心が深まったと思います。

順調にすすんでいた活動も、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年は完全休止、2021年はオンライン開催となってきましたが、記念日には必ずPRをかねたイベントで情報発信していく「クセ」がつきました。

<ところてん×●●● 課題解決のために新たなケミストリーを見つける>

伊豆のテングサは昔から、良質なところてんが作られるブランドとして、高値で取引をされている商品となっています。しかし海洋問題・就労人口・食べるきっかけなどが不足してしまい、その正しい価値を発揮できていないと思います。現在、伊豆ところてん倶楽部は「ところてんファン」たちが自分の課題として捉え、環境・経済・文化の面からさまざまな活動を行っています。近年取り込んでいるのは、サウナブームに寄り添い、ノンアルコールでさっぱりと汗で流した水分とミネラルを補給する「風呂上がり専用ところてん」など単体の活動ではなく、時流感に合わせた取り組みを行い、情報発信を行っています。

私たちは今後も身近な「ところてん」から世の中の課題・ところてんの課題を解決していき、ところてんのように柔軟なスタイルで認知の拡大・情報の発信、ファンの獲得を行っていこうと考えています。

« »

この記事をシェアする
タイトルとURLをコピー