水産業って何?

スイスイ!「地球を守る仕事」一年生 研究者の仕事ってどんなの?

地球を守る仕事って?

バクダンを宇宙に運んで恋人を守る!とか、ヒーローのようなイメージがあるかもしれません。
でも、海の資源を増やそうと頑張る事も「地球を守る仕事」で研究者の活躍しているお仕事です。

映画のように突然地球を守れたりという事は無く、地道に調べたり考えたり、試行錯誤も必要な分野です。

そんな謎に包まれた研究者の日常を皆さんに不定期で紹介します!

水産の世界が楽しそう!こんな仕事してみたいな!と感じて、研究者でも漁師でも、みなさんと同じ分野で一緒に働ける日を待ってます!

スイスイ!研究者1年生~初めての土地で奮闘中~

目次(クリックするとそこに飛びます!)

①研究者一年生 なんで研究者になったの?

②~初めての土地で奮闘中~ 全国47カ所。ダーツの旅でどこに配属??

③「藻場」って…?の巻!

④「秋の藻場」ってどうなってるの?

⑤2年目の夏!南の島の海藻事情と貝の魅力を宣伝!

 

①?

①研究者一年生 なんで研究者になったの?

2022年の春に海洋大学大学院を卒業して、4月から国立研究開発法人 水産研究・教育機構の研究員として働くことになった藤野くるみと申します。
つまり、ぴちぴちの研究者1年生というわけですね。(笑)
私は大学院を卒業するまでアサリの貝殻形態やイモガイの繁殖生態など貝類の研究をしていました。

↑アサリ:色とりどり。この中にイセエビにかじられたアサリが…答えは長崎くんちの写真のところで!

↑イモガイ:タガヤサンミナシという、毒を使って貝を食べる貝(協力:京都大学瀬戸臨海実験所)

もともと、貝が好きだったこともありますが、学生時代に通っていた大学の近くにはアサリやホンビノスガイで有名な東京湾がありました。

海なし県に生まれた私は海にワクワク!地元の子どもたちも、さぞかし海や水産物に詳しいかと思っていたのですが、どうやら刺身が海を泳いでいると信じている子もいるらしい……。
そんなことを東京湾で魚食普及活動をする漁師さんから教えてもらい、魚離れを身近に感じました。そして、貝の研究を大学で進めていく中にも、水産資源のピンチを痛感して、もっと海や海の生物資源を守り増やす仕事がしたい!と思うようになりました。
そんなこんなで、貝好きの私が就職先に選んだのは、アサリを売る水産会社でもなく、イモガイの展示をする水族館の飼育員でもなく……研究者という道でした。

研究者のお仕事は、簡単に言うと「地球を守る仕事」です。

例えば、皆さんが普段食べているお魚がどれだけ海にいるのか、船で調査して漁獲量(その年にどれだけ魚をとっていいか)を決めたり、ウナギやマグロなどを卵から育てて資源を増やす挑戦をしたり、おいしい水産物の利用や加工の仕方を研究したり、藻場や干潟に住む生物の関係性を調べたり……幅ひろーい水産の世界のあらゆる問題を解決するために、あらゆる面から研究や発信をしているのです。
難しく言うと・・・日本の水産研究の最前線で、日々日本各地の水産資源を守り維持管理するため、国や漁師さん、そして大学などと協力して海洋環境や水産資源にかかわる研究をしている「水産研究・教育機構」(略して水産機構)という研究機関で働く事になったのです。

~初めての土地で奮闘中~ 配属先(お仕事をする場所)はどこへ??

②~初めての土地で奮闘中~ 配属先(お仕事をする場所)はどこへ??

日本は周りを海に囲まれた島国です。 そのため研究のフィールドは多岐にわたり、水産機構は、釧路から石垣まで25か所の庁舎と、主にサケマスにかかわる仕事をする22か所の事業所があります。
海だけでなく内水面(湖とか川とか。)も網羅しているこれらの配属先、どこにいってもカッコイイ研究者と素晴らしいフィールドがあると思うと、とてもわくわくしますよね。

そんな日本全国47カ所(22年7月現在)!の中から配属された地は・・・・

今まで住んでいた埼玉県から1300㎞も離れた……

(ヒント:島の数日本一!アジとビワが有名で、坂と港がたくさんある…)

 

そう!長崎県でした!

↑長崎空港で長崎くんちの龍とパシャリ

イセエビにかじられたアサリの貝殻の答えは、中央のシマシマアサリの二つ右、左側の上がギザギザに欠けているちょっと大き目な茶色に白模様の子です。わかったかな?

長崎県で何を研究?

今まで研究していた貝ではなく、私が配属されたグループの研究のテーマは『海藻&藻場(もば)』!
皆さんは、『藻場』という言葉、聞いたことはありますか?

ちなみに私のイメージは…
ワカメやコンブといった海藻がたくさん海の中に生えていて、
ちょうど写真のような、水族館で見る海藻のように水槽の中をゆらゆらとゆったり揺れていて、見ているとどこか吸い込まれるかのような…

↑ジャイアントケルプ水槽:葛西臨海水族園

↑串本の海の生き物たち水槽:串本海中公園水族館

私はこんなイメージでした!

果たしてこれらは『藻場』なのか…?
減っているって聞いたけど本当の藻場というのはどんなところなの?

そんなことを思いながら、水産庁の藻場のページを見たり、論文を読んだり、同じグループの藻場の研究者の皆さんとお話したり…就職してからしばらくはそんな風に過ごしていました。

そんなある日、ついに新米の私にも出張のお話が!

ということで次回は、出張先で見てきた藻場の様子をご紹介します!

これが藻場だ!に続く!

③「藻場」って・・・?の巻

藻場を漢字や英語(seaweed bed : “seaweed”=海藻)からイメージすることはあっても、実際に見たことがある人はあんまりいないんじゃないでしょうか。

私も、海なし県育ちの浜歩き系女子だったので、実は自然界の「藻場」を見る機会もなく、この部署にやってきました。

ちなみに藻場の生き生きとした姿がみられるのは春から夏。今この文章を書いているのは秋ですが、これからお見せする藻場の様子は最初の出張で行った春の様子です。

 

フェリーで揺られて3時間。初めての出張先は、長崎県小値賀町という大小さまざま、無人島も含む17の島からなる町です。調査する場所もフェリーが到着した島とは別の島なので、チャーターした船を使って向かいます。そして今回の任務は、実際の藻場と海の様子を見て知ること。

 

最初の場所は六島という、小値賀島から船で30~40分くらいの島です。

そしてここは、センパイによると “昔の藻場”が見られるところだそう!

では、いざ、センパイに続いて入水!

4月末のやや冷たい海の中を覗いてみると、そこには色や形、大きさも様々な海藻がゆらゆらと揺れていました。きびなごでしょうか?小さな魚も群れで泳いでいました。船の上からでは全く想像していなかったこの空間に、とても感動したのを今でも覚えています。

(色とりどりの海藻の写真。海底から海面へそびえ立つ大きな海藻はアカモク)

海面近くで初めて見る形や色の海藻を興味津々に見ていましたが、ここで下のほうを見てみるとセンパイがいらっしゃいました!タンクを背負って海底で海藻の種類や長さを調べているようです。

ところで、なぜ“昔の藻場”というのでしょうか。あたりを見回してみるとここが網に囲われた場所であることに気づきました。どうやらそのヒントは、この藻場を覆っている網にありそうです。

 

実は、この網は仕切り網と言って一部の大きな魚など海藻を食べる生き物から海藻を守るために設置しているものなのです。つまり、網によって保護された藻場の中に私はいたんですね!

実は今、日本各地で藻場が減っていることが磯焼けと言って問題になっています。その理由の一つとして、魚やウニが海藻を食べてしまうことによる食害が挙げられます。

もちろん、他にも藻場がなくなる理由は高水温や海の栄養不足など、各地の海の環境によって様々あるのですが、ここでは数年前から藻場を取り戻す取り組みとして食害を防ぐ仕切り網を設置しています。しかし、最初は網が破れたりその隙間から魚が入ってきたりとなかなかうまくいかず…。

大型の魚を完全に防ぐことができるようになって、ようやく、藻場が回復できたそうです。

食害から守られることですくすくと育ち、やっと昔の藻場といわれるまでになった藻場、これはやはり感動ものですね!

秋の藻場

 

④「秋の藻場」ってどうなっているの?

季節はうんと寒くなってきましたね。こんな寒くても潜るお仕事は続きます。

ということで、前回は小値賀町の六島に潜水した春の様子をお見せしたので、今回は夏を経験した秋の海の様子を見てみようと思います。

↑これが潜る前の六島の様子。この白い浮きで囲まれた区画が仕切り網の区画です。海面までしっかりと区切ることで、魚が入らないようになっていますね。

さて、海面からは中の様子は分かりませんが、海の中はどうなっているでしょうか?

潜る前の私の予想は3つ。

1、近年の海は磯焼けというくらいだから、ほとんど海藻のない殺風景な海になっているのかなぁ。

2、 寒い海でも北海道や東北はコンブが生えているイメージがあるから、きっとコンブ目の海藻は生えているんじゃない?

3、 春にあれだけ様々で色とりどりだったから、秋でもまあまあカラフルな海藻がお出迎えしてくれるはず!

では、潜ってみましょう!センパイに続いてブクブクブク。

 

すぐ目に入ってきたのは、茶色っぽく、石がごろごろと転がる景色!海底は想像していたよりも殺風景というか物寂しいというか。海藻がわんさか生えたカーテンのようになっていた仕切り網も見事にすっからかん。答えは1番だったのか…?

しかし、よく見るとブロックから何かひょろっと伸びているものが見えます。センパイもいることですので近寄ってみると…

(↑仕切り網は海藻以外にも様々な付着物が付くので交換します。写真は交換した後でしたが、交換する前の網には汚れがたくさんついていました!)

これは…茶色い棒?ではなく、よく見ると先端に少し葉っぱだったような部分が見え、これは海藻だったことがわかりました。きっと事前情報で聞いていたコンブ目のクロメだ!

でもほとんどが葉っぱの部分がなく茎だけで、なかには痛々しい茎の断面も見えています。

魚は網で防いでいたはずなのに、どうしてこうなったのでしょうか?

(左下が元気なクロメの写真。出典:ぼうすこんにゃくの市場魚貝類図鑑

比較すると葉状部がほとんどなくなっていることがわかる。中央下写真の赤矢印は食害にあった部分。食み跡で魚の種類がわかるそうです)

 

船に上がって聞いてみると、これは今年の長く続いた夏の高水温で海藻が弱まり、茎や葉の部分が腐ったようになり、さらに台風が来たことでその部分が流され、最終的にあのような姿になったそうです。新鮮で痛々しかった茎の断面は、実は網の中にいたアイゴの仕業だそうです。網に隙間が空いていてアイゴが3匹もいたなんて!それに気づくセンパイはやはりすごい…!

人間も猛暑や台風を乗り越えるのは大変ですが、海藻にとっても、夏場の高い水温や天候の変化を乗り越えるのは大変なことで、それに加えて魚やウニなどの食害生物もいるのだから、海藻の世界はもっと大変だなぁと思いました。

 

でも、海藻も負けじと頑張っていました!調査を進めていくと、岩盤上に小さなホンダワラ類の若い芽を発見!

(↑赤の矢印で示したのがこれから大きくなる若い芽たち。頑張って大きくなれよ~~)

 

海藻の多くは夏の消失とともに、種をまいて、その種がこうして芽を出し冬から春に大きくなっていく生活史を取ります。今度の春はまた元気な海藻の様子が見られるのかもしれません。

というわけで、春に比べるとほとんど海藻のない海でしたが、コンブ目の海藻は残っていて、この時期にしか見られない若い芽も見られたので、予想の答え合わせはどれもニアピン賞でした!海はやっぱり予想外のこともあって面白いね。

 

余談ですが実は前回は採寸したウエットスーツが届く前の調査だったので、自前のウエットスーツで上からぷかーっと浮いていました。なので海底の様子も眺めるだけ。そんなウエットスーツもその後届き、今回は海底の様子を皆さんにお届けできて一安心です。ちなみにウエットスーツは夏のあいだの調査でも大活躍し、今年はこれが最後の出番となったようです。次回からは水を通さないドライスーツを着て、冬の海へ潜りに行ってきます!

皆さんも風邪などひかないようにお気をつけてお過ごしください (^^)

二年目の夏

 

⑤2年目の夏~南の島の海藻事情と貝の魅力を宣伝!~

二年目に突入してしまい、既に3か月が経過してしまいましたー…!

論文を書いたり、本を執筆したり、SNSで発信したりと、忙しくても発信パワーのある先輩方を見ては、自分も発信力がもうすこしあればなぁと思わずにはいられません。

自分に発破をかけて、今回も、書きます!(笑)

夏休みが近い今回は、石垣島の海藻と有毒生物、そして筆者が初めて書かせていただいた本『貝の疑問50(成山堂書店)』についてご紹介させていただきます。

 

私が石垣島に調査に行ったのは今年の3月。職場の先輩に「石垣島の海藻とそこにいる生き物について調査するよ!」と言われたものの、石垣島に海藻??サンゴ礁のイメージはあるけれど…。という感じでした。

実は、熱帯・亜熱帯域では、海藻とサンゴは同じ岩盤上に分布するため、生息地を奪い合う競合関係にあります。いわば縄張り争いみたいな感じです。海の栄養が少なく(貧栄養といいます)、植食動物がたくさんいる場所では、海藻は劣勢で、褐虫藻を使って日光からエネルギーを作り出すことができるサンゴが優勢となり、サンゴ礁となるのです。

その他、岩盤ではなく砂地を利用した植物もいて、砂地の浅瀬を覗くと海藻&海草のある景観を見ることができます(図1.A)。そしてそのなかのひとつがサボテングサの仲間です(図1.B)!ごつごつザラザラとした質感で表面は石灰質でできていることから、ブルーカーボン(海藻類による炭素の固定)の機能としても気になる存在です。早速、この海藻を利用する生物を調査するため根っこから丸ごと実験室にもってきて、中をピンセットで詳しく見てみることにしました。(図1.B)

(図1 A.リュウキュウアマモCymodocea serrulataやカヅノイバラHypnea flexicaulisの広がる藻場。B.実験室に持ってきたサボテングサ類Halimeda sp.とそこから採取された生物。)

 

小さなカニやヨコエビ、コツブムシなどの甲殻類をはじめ、小型の巻貝や二枚貝、多毛類などたくさんの生物門が確認されました。みんなサボテングサの作り出す複雑な隙間やその根っこの砂の間などを利用して餌を食べたり、隠れ家としたりしていたようです。海で見るだけではわからない、海藻の複雑な空間が作り出した立派な生態系ですね。

他にも、海藻を利用している生物がいました!こちらはアオサ類のカーペットなのですがその上に2個体、イソアワモチというナメクジの仲間がいます。海藻と砂地の色に紛れて、分かりにくい色と形をしているので、なかなか難問かも?

(図2 石垣島の浅場に広がるアオサ類。)

正解は真ん中付近に1個体、その斜め右下に1個体います!わかりましたか?

このイソアワモチ、海藻上の有機物を食べながら、捕食者に見つからないようにカモフラージュをしているようですね。そのうえ、背中の突起は光を受容することができる面白い機能付きです。さらに、調査中に見つけた他のチドリミドリガイという種類(図3.B)は、食べた海藻の葉緑体だけを体内に保持することで光合成できてしまう、効率的な生き方をしていました(Maeda et al., 2021)。

(図3 調査中に見つけた有肺類というナメクジやカタツムリの仲間。なんと肺を持ち、肺呼吸をしています。A.イソアワモチPeronia verruculata B.チドリミドリガイPlakobranchus ocellatus C. Elysia 属sp.)

 

ちなみにサンゴ砂の浅瀬には里芋のような形をしているイモガイもいます。見た目によらずこの里芋たちはどれも肉食で、食性は多毛類を食べるか、巻貝を食べるか、魚を食べるかの3択で、多毛類<巻貝<魚の順で捕食のために使われる毒は強いといわれています。そしてその捕食のためには毒のついた銛を使います。不用意に触ると人間にもさしてしまうことも……。アンボイナを中心に死亡例も報告されているので、ぜひとも夏休みにあつーい南の島へお出かけの際は十分にご注意ください。でも、研究者としては、これは危ないから!とまったく近づかないのではなく、できればじっくり見て興味を持ってほしいものです。

海藻の生態系を利用する巻貝や二枚貝、そして海藻に擬態するイソアワモチ、そして毒銛をもつイモガイ…など、貝ってなんだか面白いな~…ぷくぷくと興味がわいた人はぜひ「こちら」の『貝の疑問50』をご覧ください!

貝のように多種多様な専門家たちが、貝にまつわる50個の疑問に答えながら面白い世界を紹介してくれますよ!

 

ではまた次回!

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