魚の刺身は新鮮なほど美味しい? 目で見て、旨味をATPから考える
さかなの鮮度
鮮度が良くてオイシイ!という言葉、魚は鮮度が命と聞くし、その通りな気がしますね。
でも・・・新鮮なほど美味しいのか?寝かしたり熟成がウマイとか聞くけど・・・という魚の面白さに入りかけているあなたはお付き合いください。
小難しい話ですが、頭で少し理解してから魚を見て食べると、違った面から美味しさ・旨味が見えてきます。
目でわかる魚のおいしさ?
歯ごたえや旨味でも何となく予想できますが、なぜそんなことができるのか視覚で見てもらいましょう。
生きていたスズキを締めて、頭を掴んで撮影しました。後ろの壁には触れていませんヨ。
スズキ 締めて2時間
縦横無尽に方向転換しながら泳げる柔らかさがそのままで柔らかそうですが、この状態でさばいて刺身にして食べると、薄く切ってもブルブルの硬さで人によっては噛み切れません。
うまみは無く、硬さを楽しむ感じのお刺身です。釣り魚や活魚で体験できるので硬さが好きな人は入手して体験してみてください。
スズキ 締めて26時間後
死後硬直で、頭を持つとピンッと立ちます。凍っているわけではありません。
ヒレと内臓を抜いたので、全く同じ比較にはなりませんが、同じ個体です。
刺身にして食べると、〆直後よりは柔らかくなっているけれど硬めの食感でした。
※生き締めの魚は、内臓を抜いて真水で洗ってから水分をふき取りながら冷やしておけば、1週間程度はお刺身で楽しめます。徐々に身質の硬さがやわらぎ、旨味が出てくる様子がわかります。
スーパーなどでも死後硬直している状態のアジが並ぶ場合があります。
死後硬直終わり
死後硬直がなくなり、それなりに動くものの締めて2時間後のように縦横無尽の動きにはなりません。
魚種にもよりますが、このあたりから刺身にすると柔らかさが出てきます。
ヒガンフグ(関東ではアカメフグとも)は、さばいて1週間程度寝かせておかないと硬くて食べられないなど、魚によっても違います。
自宅でもできる!プチ熟成!
ちょっと試してみたいけれど、釣りも活魚も縁遠い人は、タイやブリの「サク」を買ってきて、半分だけ今日食べましょう。残りは明日。翌日は柔らかくなってうまみが増えている事がわかります。
キッチンペーパーを巻いておくと余分な水分がなくなり美味しく食べれますし、乾燥昆布をペタッと貼って一日待っても美味しいですよ。
結論 どちらがウマイか!
どちらも美味しく人の好みです。両方とも食べ比べてお好みの条件を試してください。
旨味や柔らかさを楽しみたい人は、ちょっと寝かせたぐらいがいいでしょう。
鮮度がよすぎる魚は硬さや歯ごたえが好きな人、皮も一緒に刺身で食べるのが好きな人向きでしょう。
豊後サバ活魚のお造り。ブリブリの食感が最高!
旨味とは?
昆布のグルタミン酸、カツオブシのイノシン酸、干しシイタケのグアニル酸が3大旨味成分と言われます。
魚の刺身のうまみは・・・何でしょう??
イノシン酸です。そのイノシン酸はどうやったら増えるのでしょうか?
理由を化学的に考える!
化学が嫌いな人も、おいしさのために何となく理解したつもりになりましょう。
ATP(アデノシン三リン酸)は、人を含めて動物が動く時のエネルギー源です。
アデノシンにリン酸が3つ結合している状態で、結合している部分がエネルギーの貯蔵庫、これが分解されるときにエネルギーが発生します。
リン酸結合が一つはずれると、ADP(アデノシン二リン酸)となり、エネルギーが発生します。
さらにはずれるとAMP(アデノシン一リン酸=アデニル酸)となります。
この後AMPはIMP(イノシン酸)に分解されます。
せっかく旨味成分ができてもその後時間が経つとイノシン→ヒポキサンチンに分解されて、最終的には腐敗してしまいます。
プロはこのベストな状態を見極めてお客さんに出すんですね。
「ATP→ADP→AMP→イノシン酸→イノシン→ヒポキサンチン」の順です。
化学で1,2,3,4,5,をモノ、ジ、トリ、テトラ、ペンタ・・・と覚えた人は思い出してください!
ん?暴れた魚はどういう状態?
暴れるためにATPが分解されてエネルギーになってしまい、旨味の元が少なくなってしまいます。
釣った魚を一晩いけすで寝かしてから締める場合もあります。釣りで暴れた魚の体にあるADPがATPまで戻って同じ状態で出荷できるためです。
釣ってすぐに、おいしさのために素早く締める場合もあります。
頭をグサッと指す場合もあれば切ってしまう場合も。
頭と尾を切られたマツカワガレイ
なお、脳を締めても神経が残っていると筋肉が動いて分解が進むため、神経締めで体の隅々までしっかりと締める方法もあります。
頬の傷でエラから血を抜き、頭からワイヤーで神経締めされているサワラ
鮮度が落ちた魚は美味しくない?
いえいえそんなことはありません。
締める手間がかかっていれば、その分お値段も高くなるのでお財布と相談ですが、鮮度が良すぎるよりは少し時間が経った方が塩焼きや煮付けはうまいでしょう。釣ってすぐよりも内臓を取って数日ねかしたり、どのような魚料理にするかで選び分けてもいいでしょう。
ということで、鮮度がいいからと言ってオイシイとは限りませんが、プロは料理の選択肢が広がるので常に活魚を仕入れるお店もあります。魚の購入段階から料理をイメージしているので、そんなことも考えながら家でどこまで美味しく楽しめるか考えても楽しいですね。
魚をさばく!
ATPとうまさの関係が分かれば同じ魚でも違う味が楽しめます。
さらにどんな魚でもさばけるようになれば、料理の楽しみ方は無限大!
さばくときの楽なコツは「こちら」からどうぞ!
ヒレを落とすと雑菌も増えにくくなり熟成しやすくなりますが、包丁でヒレを切るのは・・・大変ですヨ。