増えたと噂のクロマグロ。食べている魚の量はどれぐらい?
クロマグロが10年で15倍に増加!
「こちら」で説明した内容が成功して、10年前1万tだったクロマグロの親魚資源量は15万tまで増加しました。
クロマグロは、4歳(140cm58Kg)で半分程度、5歳(160cm85.2Kg)だと全てが大人に(成熟)します「こちら」。
親魚一尾が仮に100Kgと考えると、10年前の10万尾が今は150万尾に増えた事になります。
つまり、10年前よりも140万尾多いクロマグロが海の中を泳ぎ回っていて、何かを食べているという事になるのです。
イカが減少しているのは・・・クロマグロのせい?!
漁師さんから「イワシもイカもクロマグロが食べているんだ!」という意見を聞く事があります。
水産物が減少している理由は種類によって様々です。海洋環境の変化や、温暖化による水温の変化、もちろん漁業による影響もあるでしょう。
ここで、どれか一つだと信じ込んでしまうのはお勧めできません。
魚種による違いもあるので、「温暖化だけが原因だ!」などと考えると必ず矛盾が生まれてしまいます。一つ一つ考えながら、研究をして突き詰めていくという事でわかってくる場合もあります。海は広く見えない部分が多いので、結局わからない場合もあるのが厄介ですが・・・。
イカとクロマグロの関係を考えてみる
マグロの中でも個体数が少ないクロマグロ単体で考えるのは少し乱暴かもしれませんが、食物連鎖の頂点であるクロマグロが増えた分、ピラミッドの下を支える餌がその分減ることを考えるのは自然な事です。
一つの例として、具体的にどんな影響があるのかを考えてみましょう。
ハダカイワシのような、人が食べない種類だけを食べて育って、人が食べるようになれば嬉しいのですが、生き物は本能として常に効率よく食べれるエサを海の中で探し回っています。
そして、赤身のマグロは長距離移動に特化した生き物なので、餌を探し回る事ができるのも特徴です。
クロマグロが食べる魚介類は何??
マグロが食べている魚種は、季節や場所によって変わります。
釣れたクロマグロの胃袋を見る事で、ついさっき何を狙っているのかが分かったりします。
クロマグロの成長度合い、体や口の大きさによって餌の種類は変わりますし、人が利用していないハダカイワシやアミ類(エビのような形)も食べていますが、カタクチイワシやキビナゴ、スルメイカ、トビウオ、ムロアジ、サンマ、サバ、イワシ、エビなどなども食べているので、ある意味ヒトとライバルです。
漁師さんは、大型のマグロが定置網でドンドン獲れるし、イワシやスルメイカの漁場でもマグロを見るし、データからマグロが増加しているし、ということでクロマグロがイカを食べていると感じている方も多いのですが、実際に何を食べているかの判断は難しいところです。
ただ、食べている量ぐらいはおおよそ検討がつきます。
クロマグロは、漁師さんが獲っている大衆魚の量と同じぐらい食べている?
アタリをつけるためのザックリ計算です。最初に養殖場の例で考えてみましょう。
養殖場では小さなクロマグロ(メジマグロ)を育てて出荷します。70Kgぐらいまでが成長速いのですが、1Kg太るのに10-15Kgのエサを食べると言われています。その後は、産卵などに栄養が取られたり、大きい子が死んでしまうと損をするなど効率が悪くなるので、採算が獲れやすい大きさで出荷されて我々が食べる事になります(↓30Kgの養殖クロマグロ)。
天然のクロマグロの食事量を調べる事は難しいですが、クロマグロの近縁種、タイセイヨウクロマグロの胃内容物を調べた結果、毎日自重の2%のエサを食べているという研究報告がありました(Butler et al. 2010, Fish Bull)。
日本沿岸のタイヘイヨウクロマグロも同程度と仮定した場合、15万tのクロマグロ親魚は1年間で100万t強のエサを食べていると予測できました。
これは、クロマグロが一口で食べれそうな大衆魚の年間漁獲量100万t(2024年付近イワシ56万t、サバ30万t、サンマ3.8万t、スルメイカ3.7万t、アジ2.7万)と同じぐらいの量です。
クロマグロが食べる魚には先に示したように人が利用しないハダカイワシ等も含まれますが、目の前にサバやイカがいれば食べるだろうという事を考えると、大衆魚に対する一定量の捕食圧になっている事は間違いなさそうです。
なお、15万tは親魚なので、親になる前の大体5歳ぐらいまでの子供達が食べる餌の量も考える必要があります。現在毎年3万tの親が増えていると考えると・・・5世代×30万尾=150万尾は確実に泳いでいるのでしょう。1歳4.4Kg、2歳16Kg,3歳35Kg,4歳60Kgを子どもとして、毎日自重の2%で計算すると、最低でも25万tは食べていそうです(それぞれの年代30万尾が1Kg太るのに13Kg程度必要とした場合も23万t食べているという計算になります)。
とてもザックリとした計算なので、お叱りを受けるかもしれませんが・・・。
少なくともイメージできるのではないでしょうか?
キハダ。左下ソーセージ形の胃袋はパンパンに膨れていた。小さなサバとイワシが入っていた。
マグロが食べたサバも、大きくなるまでに他の生き物を食べていたはずですね。
クロマグロをどのように利用していけばいいのか??
減ってしまったクロマグロを増やそうと関係者が努力して成功しましたが、ピラミッドの頂点である捕食者を守ることは、そのエサ資源の個体数にも影響が及ぶ可能性も考える必要があります。
現在の資源調査は、食物連鎖が複雑すぎるために単体の魚種毎に計算するしかありません。
水産資源は基本的に増えた分だけ利用すれば減りませんが、何事もバランスが大事なので、特定の生物だけを集中して獲りすぎたり、逆に守りすぎるとバランスが崩れてしまう可能性がある事も考えていく必要があります。
少なくとも10年前と比較すると、クロマグロのエサには10倍以上の大きな圧力が加わっていると考える事ができます。
もちろん、海洋環境の変化や、「栄養塩類の不足」なども含めて海の資源がどのような影響を受けているか調べる事も重要です。
クロマグロは国際資源のため、日本の一存では獲る量を変更する事ができません。
一時期クロマグロが減少した事は事実ですが、今後、「増やすことだけ」が目的にならないように、
有名なクロマグロだけを守って、結果としてエサとなる魚が食べ尽くされて人が利用できなくなり、最終的には、クロマグロの餌も無くなりクロマグロの群も崩壊して・・・という結果にならないよう、様々な可能性を考えながら対応できるようにしていかなければなりません。
どの段階で利用するか、その年増えた分は漁獲し切る!等を考えていくのも一つの手かもしれません。
将来的にAIの発達等で、魚種をそれぞれどれだけ獲ると、人が利用できる最大限のタンパク質が分かる等の計算ができるようになるのでしょうか・・・。
食物連鎖全体でどうなるか、等のシミュレーションが必要な分野も補ってくれるといいですね。
色々難しく考えていくと何を食べていいかわからなくなりますが、魚資源の有効利用方法の一つである「未利用魚」を食べる事もおススメです。地元の魚等だとなおいいですね。
無駄なく食べる事を目指してくださいね。