寄生虫 アニサキス 食中毒を考える ③

2017年に一躍有名になったアニサキス。過去20年で腸炎ビブリオの食中毒が1/100になったことで食中毒発生数では目立つようになったことも一因です。

様々な立場がありますが、必要以上に不安感を煽り、消費者の「選択の権利」を奪ってはいけません。

魚を愛する一人として、繊細な問題ながらメディアが取り上げやすい題材となった今、消費者に説明するための情報としてまとめました。

「刺身」は切って並べるだけではなく、鮮度、産地、魚種等の知識と技術が集積した料理です。
つまり、知識がアニサキス等のリスクの減少に繋がります。
噂で刺身全てをキケンと捉えずに、知識によってリスクを低減するために様々な角度から切り込んでみました。

胃アニサキス症の発生状況と特徴

厚生労働省によると、発生件数は2006年5件、2016年126件、2017年240件と、「報告件数40倍!」ですが、2012年12月以降、食中毒の原因種別として追加されて届出義務が生じたための増加です。診療報酬明細書から計算した場合、年間の患者は4,000~7,000人との説もあるため、「アニサキス報告件数が1000倍!!」と報道される可能性も有り得ます。

なお、アニサキスを食べた人全員が胃アニサキス症になるわけではない事、食中毒患者数では全体の0.6%であり、集団感染はせず単体での発症がほとんどである事、胃アニサキス症での死亡例が無い事等も特徴です(痛いだけ!)。

 

刺身を食べて胃アニサキス症となる確率

少々乱暴ながら刺身を食べて胃アニサキス症になる確率を計算してみました。
全国民(1.25億人)が毎週一回(50回/年)生魚を食べて、年間7千件発症したと仮定した場合、7千/(1.25億人×50回/年)1/90万食の確率で、1000万円の宝くじが当たる確率と同等です。

 

【対処方法】

内視鏡と鉗子での除去が主な対処方法ですが、最近「木(もく)クレオソート」成分の摂取も有効だと判明し、「アニサキス症の予防・症状改善のための薬剤としての活用に関する特許」をラッパのマークの大幸薬品㈱が2014年に取得(特許第5614801号)済みで、症状改善例は「木クレオソート」を含む薬品を摂取後1-2分でアニサキス症の痛みが消失した例、濃度依存的にアニサキスの活動が停止した例等があります。

https://www.seirogan.co.jp/dl_news/file0095.pdf

※大幸薬品の正露丸の主成分は「木クレオソート」。
※アニサキス症の予防・症状改善の薬剤として「木クレオソート」は研究で実証され、特許取得済み。
※薬機法上、大幸薬品の正露丸の効能は、「軟便、下痢、食あたり、水あたり、はき下し、くだり腹、消化不良による下痢、むし歯痛」。登録時の効能に入っておらずアニサキス症への効果は言及できない。

 

1960年代に開腹手術でアニサキスを除去していた例がありますが、現在は軽度であれば錠剤を飲めば痛みが治まる場合もある事が判明しており、人類の知恵の勝利例と考えて良いのではないでしょうか?

有効な物質がありそうだと安心してはいけません。
様々な方向からリスクを低くするために、改めてアニサキスの特徴をまとめます。

 

寄生虫とは?

寄生虫は外部寄生虫と内部寄生虫に分かれ、前者は体外に付くサンマウオジラミ、カニビル等で、後者は体内に潜むアニサキスやニベリニア等が含まれます。どちらもホスト(宿主)から栄養や住処を提供して貰っています。宿主を駆逐してしまうほど害を与えてしまう寄生虫は、種として存続できなくなるため、基本的に寄生虫が宿主へ致命的な害を与える事は少ないのですが、本来のルートと異なる生物の体内へ入った場合等に、寄生虫が宿主に害を起こす事があります。アニサキスが人間の胃や腸に潜り込んで痛みを伴う「胃アニサキス症」はその典型的な例です。

 

アニサキスの一生

アニサキスは「海を漂うアニサキスの卵⇒甲殻類(オキアミ等)⇒中間宿主(サバ、イカ、イワシ等等)→海生哺乳類(イルカやクジラ)⇒海生哺乳類の体内で成体となり海中に卵を放出」という生活環を送ります。各ステージで全てが感染するわけではなく、例えばサバが膨大な数のオキアミの中のアニサキスを摂取した結果、その内のアニサキスの一部がサバに居座る状態となります。感染力はそこまで高くないと考えられますが、甲殻類を食べる魚は全て中間宿主の可能性があり、日本周辺では、マサバ、スルメイカ、サンマなど150種が確認され、イルカ等の代わりに人間が食べる事でアニサキスの幼虫が人間の体内に入り、胃アニサキス症を引き起こす場合があります(地域によって異なる例は後述)。

 

【確実な予防方法】

・加熱(60℃ 1分以上)
・冷凍(-20℃で24時間以上)
いずれの方法でもアニサキスは死にます。解凍と書かれた刺身やサクがこれにあたります。
冷凍マグロ、冷凍イカ、冷凍サンマ等のアニサキスは死滅しており、心配する必要はありません。

 

【都度判断必要だが、ほぼ確実な予防方法(各人の腕による)】

・目視確認

アニサキスは長さ2-3㎝、丸まっていると直径4ミリ弱で、よく見れば発見できます。
魚の刺身を薄く切れば発見できます。イカは特に見つけやすいので目視が確実な予防方法となります。
刺身の中にアニサキスが穿孔した場合、穴から血がにじむ場合があり、これを発見する事も有効です。
内臓にアニサキスが多い個体は、刺身食を避ける、背部を刺身にする事も確率を下げる一つの手です。

・内臓から身に移動する前に除去する

アニサキスは生きた魚の内臓に寄生します。魚が生きている場合と、氷等で冷えている場合は内臓から動きませんが、魚が死後に体温上昇するとアニサキスの種類によっては身の部分に移動する個体が出始めます。つまり、漁獲して直ぐに冷やした状態で内臓部分を除去すれば、アニサキスは除去できます。

スーパーで冷えた状態の魚を良く冷やしたまま持ち帰り、帰宅後すぐに内臓を除去する事が重要です。

逆に「刺身用」と書かれた鮮魚を常温で持ち帰って刺身にした場合や、魚が十分冷やされていない場合、魚が氷の上に置かれているが氷に触れていない部位の温度が高い魚は、アニサキスが内臓から身に移動している可能性が高まり、これを刺身用に調理するとリスクが高まるため注意が必要です。

 

【予防のヒント(養殖魚と天然魚の考え方)】

養殖、天然共に様々な生産・加工・流通方法があるため一概に言えませんが、ごく一例を紹介します。
最近の養殖魚のエサは生餌(イキエと読まずナマエと読む。冷凍された魚の事)や、乾燥魚粉(ミール)から育てられる事が多く、餌に生きたアニサキスがいないため、確率から考えて体内のアニサキスが極端に少ないかゼロとなる傾向があります(稚魚からの蓄養や、完全養殖によっても異なる)。
一方天然魚でも、冷却方法や機械化等で、鮮度を保つ技術や仕分けスピードが年々進み、アニサキスが内臓から移動しない状態でスーパーまで流通する手法が発達しています。網の中で泳いでいる魚を掬って直ぐに氷漬けにする例や、直ぐに内臓を取り刺身用のサクにする天然魚もあります。
つまり、一概に天然、養殖の良し悪しを決める事は出来ませんし、カツオ等の養殖されていない魚種はそもそも天然と比較できません。販売されている魚の漁法や冷却度合で判断する事となります。

 

【予防のヒント(魚種、アニサキス種、地域による食文化の違い)】

日本ではサケの生食は避けられており、これは経験上食中毒が多く、加熱調理が伝承された結果です。
サバは生食、生食を避ける地域が分かれています。西日本ではマサバをゴマとあえた「胡麻サバ」として生食しますが、関東では生食は避ける傾向があります。これを裏付けるように、近年の研究(鈴木淳・村田理恵2011、鈴木淳2014)で西日本のサバに含まれるアニサキスと、太平洋側のサバに含まれるアニサキスが別種と分かりました。2種とも魚の死後、内臓から身に移動するアニサキス個体がいますが、西日本のアニサキスは関東と比べると1/100個体程度しか移動しませんし、最終宿主も異なります。太平洋側では食中毒になりやすいアニサキスの分布域であったためにサバの生食を避け、西日本では食中毒になりにくいアニサキスだったため生食文化が発達したようで、地域による食文化の違いは食中毒を避ける工夫が含まれていた事が分かります。

 

種類

アニサキス シンプレックス

アニサキス ペグレフィ

最終宿主

ミンククジラ

マイルカ

分布(8割以上)

高知県から青森県の太平洋側

長崎県から石川県の東シナ~日本海

常温での内臓から筋肉への移行率

11.1%

0.1%

平均寄生数/サバ一尾

5.5匹

47匹

 

 

高鮮度のサンマが流通し始めた10数年前から関東、関西でもサンマを刺身で楽しむ機会が増え、今までは焼いて食べるサンマを生食するようになった事で、アニサキス食中毒が一定数増加した可能性は有ります。ただ、良く冷えたサンマの内臓を直ぐに除去すれば防ぐことができますし、解凍サンマでも鮮度が抜群で刺し身にできる場合もあるので、用途によって使い分ければ良いと思います。

 

【効果を期待できない方法】
×酢じめ、調味料に漬ける

酢じめは身の引き締めや細菌には有効ですが、アニサキスには意味がありません(アニサキスが生活するクジラ胃内部のPHは2-4程度、酢のPHは3程度)。アニサキスはアルコールにも強く、2.5-10%アルコール飲料内で5日間生存、14-25%アルコール飲料内でも平均5.6時間生存します。ワサビもチューブ一本分が必要など、家庭の調味料程度ではアニサキスに対しての効果は無いと考えるべきです。

×よく噛む

残念ながら、噛み殺せません。良く噛む事が有効であれば魚食普及上便利だと思い、アニサキス単体を口に入れて集中して噛もうとしましたが、上手く噛めませんでした。噛むとプチッと音がするため分かるのですが、意識して10回以上噛んで一部に傷がつく程度でした。傷がつく事でアニサキス自体が弱った事は確認できましたが、身と一緒に口に入った場合は身がクッションとなるため噛み殺す事は現実的ではありません。包丁でのタタキ等も十分刻めば効果があるでしょうが、確実では無いと思われます。アニサキスが含まれない魚や部位を確認して生魚料理用途とする事が大事です。

 

[参考:アニサキスアレルギー]

生きたアニサキスが胃や腸に穿孔する「胃アニサキス症」と異なり、食物アレルギーとしてアニサキスがアレルゲンとなる場合も稀にあります。発症するとアニサキスの生死を問わずアニサキスを含む食品全てを食べる事が出来なくなるため、胃アニサキス症とは異なる厄介なアレルギーです。
冷蔵技術の発達で近所のスーパーで刺身加工可能な鮮魚が100円以下で手に入る日本の現状は、世界的に見ても素晴らしい環境です。
少しでも多くの人が心配せずに美味しい魚を食べられるように、アニサキスを知識で制御・克服して美味しい幸せを皆に広げましょう!

 

カツオは今が旬! 食べましょう!

文責:早武

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